Voice of Ito Naoko
1991年以来セッションハウスのダンス・プログラムの監修と劇場専属のマドモアゼル・シネマを主宰してきた伊藤直子が、2024年度のダンス企画に籠めてきた想いと成果を語ります。
伊藤直子『体制が少し整ってきました』
1991年に出来た「セッションハウス」は今年34歳!ダンサーなら「ダンス花」!今が旬といえましょう!そしてこれからの活動を考える時期でもあります。そのダンス花で久しぶりに「ベスト賞」「韓国NDA招聘」のダブル受賞(大森弥子・堀川千夏)が出たことも気持ちが高揚します。有志が集まり、セッションハウスの自主企画を担ってきた「セッションハウス企画室」は2022年非営利の任意団体から一般社団法人になり、現役ダンサーの尾本安代さん、松本大樹さん、笠井瑞丈さんが理事に就任。若手の育成に力をよせ、”セッション賞”の選考も担っています。研究者としての知識で若手育成を受け持つのは石渕聡さん、望月崇博さん。アーツカウンシル東京の助成を得て2年間実施したこの「若手ダンサー支援プロジェクト」を今後どのようなかたちで継続できるか、これから取り組む大きな問題です。しかしこの体制で臨んだこれまでにない試みは様々な体験や結果を残し、私たちの次への道を促す大きな原動力となっています。
コンテンポラリーダンスの多様性はダンスの発展に良くも悪くも作用しています。何でもありとコンセプトを定義されないままのダンスはプロアマの境界線もなく良くもあり悪くもあり。だから2024年は自らの特徴を明確にして“これが私のクオリティ”と訴えようと「ダンスブリッジ」を企画。ジャンルを超え(坂東扇菊)、時代も記憶も交錯する物語性(伊藤直子/マドモアゼル・シネマ)や、自在な心身が垣根を越えてもたらす自由(近藤良平)を届けました。セッションハウスが長年積み上げてきたダンスの集積です。
そして若手支援プロジェクト「ダンス花」。まだクオリティを持つには実験的な作品と身体が並びます。受賞はなりませんでしたが、独自性、多様性の見本市の様な作品が並んだことこそ、これもセッションハウスが積み上げてきたダンスの集積と感じます。完成度が際立っていた大森弥子さんのダンスが韓国国際フェスNDAに選ばれたことは当然としても、その他のダンサーたちのまだ実験的な段階にある作品群にも私たちは強く心を惹かれました。「そこに価値や可能性を感じることが出来る観客の育成、ピナバウシュら先人が先駆けて切り拓いてくれた、身体的な技術の挟間に介在する表現の可能性の黄金郷、そこに真正面から取り組んで戦ってきた私たちの歴史」、それこそダンスを万人に拓くものと、石渕さんは語ります。自らもダンサーとしての活動も続け、若手を暖かく導いてきた人の言葉に共感と、そしてまだまだ行こうねと励まされる思いです。
小さな芽を出し息吹いているこれらのダンスが、漫画やアニメの様に「日本文化」として発展していくことこそ、私立の場所を創り、次の世代へと続いていく道を探る私たちの大きな夢であり、目指す方向と思いを強くしています。
伊藤直子
ヴォイス・オブ・セッションハウス2024より抜粋
セッション賞受賞者決まる
年が改まった今年2月1日に若手ダンサー支援プロジェクトの「ダンス花」公演が行われ、韓国のダンサーを含め6作品が競演しましたが、その後セッションハウスの3人の理事(尾本安代、松本大樹、笠井瑞丈)による厳正な審査の結果、森弥子・堀川千夏組が2024年度ベスト賞の受賞者に決まりました。また今年の8月に開かれる韓国の大邱で開催されるNDAダンスフェスティバル(審査員:ユ・ホシク)に招かれるダブル受賞となりました。