須川萌-アニュアルレポート2018

セッションハウス アニュアルレポート2018  須川萌

海を渡る〜あの頃私は、子どもだった〜

森の力]

 マドモアゼル・シネマは、2018年11月7〜11日、和歌山芸術文化支援 協会(WACSS)が企画する「”森のちからX” 未来の森へ」に参加。歴史と文 化を育んできた熊野の豊かな森で、和歌山県串本町・出雲小学校の全学 年18名と地域の人々と交流しながらダンスワークショップを行い、映 像作品を制作した。このプロジェクトは、WACSS理事長 井上節子さん ご尽力のもと実現したものだ。  私は映像撮影・編集を通して、演出家・伊藤直子率いるダンサーと子 どもたち、そして森の力を見つめた。

 

 テーマは、身体で物語を作る。お題は、赤ずきんちゃんと狼。タイトルはまだない。  
伊藤直子「この授業は、体育と美術と国語と、そして休み時間だと思ってね。」
*「 名前は、そうえいです……。」
伊藤直子「どういう字書くの?」
* 「………。(どうやらなんて言えばいいか分からない様子)」

 

 周りの上級生が上履きに書いてある漢字を指差す。よく見ると、もう一方はスリッパを履いている。
川口蒼瑛くん「(ニコニコしながらスリッパの方の足を指して)捻挫した。」
全員「(笑)気をつけてね!」
名前を付けてくれた母、父、おばあちゃん。18名の生徒達が恥ずかしそ うに名前を言う姿は、自分の存在に小さな灯が点った瞬間に見えた。 

 

ハイ!スタート!  

 

子ども達は、赤ずきん役と狼役に分かれて、新聞で衣装を作り、そして森 に出た。赤ずきんは正義で、狼はワルモノ。そんな寓話を森の中で、子ども達が演じる。森の二本道を利用し、対立するシーンの撮影。木々の陰からひょっこり顔を出す女の子達(赤ずきん)、葉っぱが覆い茂った森から獣になりる男の子達。演じることと遊ぶことが混ざり合っている。子 ども達は森の守護神のようであった。

 

OK!カット!

 

森の力]

 自己紹介をしたお馴染みの学校のホールが最後の舞台となる。約20分間ぶっ通しだ。「1000人のお客さんが見てると思ってね」と直子さんが声をかけると、子ども達は静かに集中し始めた。
ハイ!スタート!と撮影が始まり、OK!と声がかかるまでの数分と、 約20分間ノンストップの舞台。この二つの時間の重みを子ども達はどう感じたのだろうか。私は映画とドキュメンタリーのあいだで漂い、カメラ のフレーム内に現れる子ども達の表情に釘付けとなった。
純粋な心が小さく振動し、身体が大きく動き続ける。いたずらっ子の男の子達は、好奇心豊かに表情が動く動く!大人っぽい女の子たちは、その内に秘めた繊細な眼差しを向ける。小学1.2年生は、何故か1番堂々としている。脱力系の子どもたちも、身体は脱力しながらニコニコしている。子どもたちは物語の世界に居ながら、誰にも指示されない自由な感じ方で踊っていた。なぜ踊るのか。人は自然に産み落とされ、負のエントロピーに逆らいながら 土に還っていく。マドモアゼル・シネマは、森で、岩の上で、海で踊ってきた。アー ティスト大矢利香さんの森の中に作られた舟の作品に出会った事で、自然の中で踊ることを許された気がした。

 

 100年前、知らない国のお嫁さんになる為に海を渡った女性たち。彼女 たちに時を超えて想いを馳せる時間は、目前に広がる海でただ踊ること以上に、素朴なものだった。
マドモアゼル・シネマ、旅するダンスは、和歌山 の森と海と子どもたちと100年前の女たちと出会い、身体は素直になった。  映像作品は、和歌山の子どもたちに届いた。
皆、自分が映っていること に嬉しそうだったようだ。映像も素直に編集していきたいところだ。

 

森の力]

 改めて、このような機会を作って下さったWACSS理事長 井上節子さん、 串本町立 出雲小学校校長 山路和彦さん、教員の皆様、生徒の皆様、青少 年の家の皆様、マドモアゼル・シネマに感謝致します。

 

マドモアゼル・シネマ 須川萌

 

セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真:「"森のちからX" 未来の森へ」串本町立出雲小学校でのワークショップ

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