皆藤千香子-アニュアルレポート2018

セッションハウス アニュアルレポート2018 皆藤千香子

ドイツで振付作業をするということ

 

昨日デュッセルドルフで行われた私の新作公演を終わって、この原稿を書いています。

 

私はドイツでダンス、 振付家としての教育を受 けました。
ドイツに留学したのは、私は日本のダンスはバレエでもコンテでも伝統がないということを感じていたのと、現代社会に対して何かを提出し、影響を与えていくことが振付家としての存在 意義なのだったら、日本を出て世界を見た方がいいと思ったからでした。

 

でも、 その後、気付けばドイツ生活ももう15年を過ぎています。それはやはり、私 にとっての振付のやりがいと目標がドイツにはあるということだと思います。

 

私がフォルクヴァング芸術大学に入学したのは2002年で、ピナが亡くなるまでの最後の7年間を享受することができました。今のピナのカンパニーの作品は、同じ作品でも私が学生時代に見た記憶とは全然違います。
ピナがまだ存命していたときの作品の雰囲気は忘れることができません。 ダンサーのちょっとした視線、仕草、ほんの少しのタイミングで、作品が全 く変わってくる。
ゲネプロを観客席で見ているピナを見ると、時間の流れを 彼女がコントロールしているのが感じられます。ダンサーが、自分のためというより、彼女のために踊っていることも伝わってきました。
そして、最後観客が拍手しているとき、舞台上に彼女がいないことはありませんでした。 ピナの作品を学生時代浴びるように見た経験は、私の振付家としての根幹を為していて、これくらい強い作品を作るということが目標になりました。

 

あともう1人、強い影響を受けたのはスザンナリンケです。彼女は振付家と して大学の卒業公演で作品を作ってくれました。
そして確か60代に差し掛かっていましたが、まだバリバリ踊っていて特にバスタブのソロは本当に凄く、日本で大野一雄さんを見たとき以来のショックを感じました。
こんなにすごいも のを見る機会があると、私に何ができるんだろうと考えざるを得なくなります。

 

ピナバウシュやスザンナリンケと同世代で、デュッセルドルフを拠点に 活動しているノイエタンツの振付家からも強い影響を受けました。
彼は写真家なのです。デュッセルドルフのアートシーンはヨーゼフ・ボイスの影響 が強くて面白く、そのアートシーンにいる写真家が作るダンス作品は美術作品のようで、ダンスの教育を受けた振付家が作る作品と全く違う視点の信じられないような表現がありました。

 

 このように目標となるアーティスト達がいる環境で作品を作っていく意義を感じているからこそ、長くドイツにいるのだと思います。それにヨーロッパは日本よりも多民族国家で、世界中から来るアーティスト達と作品を作ることができます。
身体にはその国の歴史、文化、精神性が宿り、その 国の今の状況も感じることができる。そのようにして振付家として、幅広い 視点を持つことができるのも魅力です。

 

 今回この原稿を書くきっかけになったセッションハウスのカトルカール公演に出演したことは、私にとっての節目になりました。
なぜなら、昔セッショ ンハウスでバレエのレッスンを受けた後、魔術的に感じる音楽に惹かれて伊藤直子さんのクラスを更衣室の裏側の階段から覗き見し、この不思議で素敵な雰囲気は何だろうと感じたことが、私がコンテンポラリーダンスに興味を持った きっかけだったからです。20年の時を経てその場所で振付家として公演させて頂くこと、伊藤直子さんや伊藤孝さんが昔と同じように(そしてもっとパワフルに)そこにいらっしゃることの意義を思うと胸がいっぱいになりました。

 

皆藤千香子

 ドイツでも日本でも、アーティストとして生きていくことは難しく、さま ざまな困難にぶつかるものだと思うのですが、こういうことがあると今まで頑張ってきてよかったと思うことができます!
 そして、今までは自分のスタイルを確立することで精一杯だった自分ですが、この時の長さと同じだけの経験が私の力になっていることも感じる ので、私がピナやスザンナに教えられてきたことを、次世代に"伝える"と いうことも考えていかないといけないと感じています。

 

皆藤千香子

 

セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真:皆藤千香子さんとヤシャ・フィーシュテートさんカトルカール公演でのスタッフとの打ち合わせ中

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