セッションハウス アニュアルレポート2018 井田亜彩実
私をつき動かすものは
私が4年間所属してきたMaria Kong は2008年に元バットシェバのダン サー4名で創った若いカンパニーであり、クリエーションに力を入れていました。スケジュールは週5回12時から19時までリハーサルがあり、公演やツアーがありました。メンバーはイスラエル、ロシア、ブラジル、フランス、日本の6名で国際色が豊かなカンパニーとして、劇場に限らず、屋外、クラブホー ルを貸し切ったり、様々なアーティストやテクノロジーとのコラボを積極的に行うなどダンスと社会のつながりにおいて新しい試みを行ってきました。
ダンスは身体芸術であり、人を表す。つまり、その人の人間性や生活が垣 間見えます。私はイスラエルで人間らしい生活というものの大切さに気が付きました。日本にいるときは忙しくしているのがステイタスで手帳に予定が埋まっていくことで安心していたような気がします。しかし、休日に ゆったりとした時間の経過を感じ、友人と語り、風景、植物を眺め美しいと 感じる、その心が動かされる瞬間に出会える素晴らしさ、心の豊かさを知りました。生活の中で、私は選択しなければならないことが目の前に現れた時、心がときめく方を選んできました。そうすれば選んだ道が困難でも納得して立ち向かえる力があるからです。
よくディレクターに「Do not lie, Do mistake (嘘をつくな、ミスをしろ)」と言われました。 最初はミスなんてご法度、できませーんと動揺したのを覚えています。本番前に失敗しろというディレクターがいるでしょうか。しかし、これは型を追うのではなく、その時のリアルな表現をしろ、ミスをする瞬間の回避から生まれる新鮮さというものを大切にしろという意味です。リアルな表現=感情的に踊れということではありません。どんな感情が私をつき動かすのかということなのです。芸事には”型破り”という言葉があるように、型があってこその型破り、つまり、土台となる技術(型)がある前提の話とは思いますが。
そして今私は心がときめく大きな選択をしました。それは日本に帰り、 作品を創り続けること、自分の基盤を作ってくれた大好きな人達ともう一度踊りたいという事です!日本人ダンサーの質は本当に素晴らしいです。 これは胸を張って世界に誇りたい!そんな皆様と出会い、経験を共有し、 一緒に心が動かされる瞬間に立ち会いたいと思っています。
しかし、まだまだ日本ではコンテンポラリーダンスはマイナーであり、 見合った対価が得られず、ダンスそのものに向き合える時間を確保するこ とが容易ではありません。海外で得た経験を踏まえ、ダンス活動を広め、
ダンサーの居場所をつくっていくことも私の使命であるとも感じています。ダンサーがダンサーらしく生きていける場所の確立、そして彼らには型にはまらずどんどん失敗しろと言いたい。そこから思いもよらない可能性が広がります。
今出会える人と今しかない感情で吐き出すように、これからの日本でのダンス人生を豊かにしていきたいです。
井田亜彩実
セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真:2018年12月23日、24日上演
UDCアフターズ『あの劇場にふたたび!』
井田亜彩実作品『Love Is Like a Bird-恋は野鳥のように-』