セッションハウス アニュアルレポート2018
ガーデン活動報告 ガーデン活動報告
セッションハウスの2Fギャラリー【ガーデン】では、2018年も自主 及び共同・協力企画のほか、レンタルの展覧会、演劇公演、トークの会、 クロッキー会など、多彩な活動の場となった。
自主及び共同・協力企画の軌跡
3月 7日〜14日
都立三商創立90周記念三希展(豊田紀雄、北島朝子、水上健二)
3月16日〜25日
後藤悠樹写真展「サハリンを忘れない」
4月 4日〜 7日
さかもと直子展flower exhibition(T)
7月18日〜23日
巴里祭に寄せたアート展(T)
9月19日〜24日
F展vol.3 景色2018(T)
10月 7日〜15日
朝倉加代展Reimagine
OPファッションショーにマドモアゼル・シネマ4人が参加(T)
10月19日〜28日
高專寺赫展
11月 6日〜12日
有川通子展 大地の詩(うた)
11月16日〜19日
手のひら市vol.7(T)
11月30日〜 12月 5日
ノエル展(T)
12月 5日〜 9日
わわわ俳句展(T)
※主宰者を松本純一から吉田卓史が引き継いだクロッキー会は、12回開催
※(T)は演劇美術社の豊田紀雄氏の提案企画
※渡辺一枝トークの会「福島の声を聞こう!」は1月、5月、8月、11月に開催
ガーデンで2011年の東北大震災の1年後から始まった渡辺一枝トークの会「福島の声を聞こう!」は昨年も4回にわたって開かれ、今 なお残留放射能の影響下で故郷への帰還問題などで揺れ動く被災地の方々の声を届けてきたが、それは2019年にも継続させるべきものとして位置づけられている。
これまで軍隊慰安婦など歴史にまつわる 問題をテーマにした写真展を開いてきたが、昨年は戦後もサハリンの 残留日本人が朝鮮人やロシア人と共生している姿をフォーカスした カメラマン後藤悠樹の写真展が開かれ、若い世代から問題提起をするものとして新聞などのメディアにも大きくとり上げられ、トークの会も開かれるなど多くの 来客で賑わった。
セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真:渡辺一枝トークの会
また、毎年さまざま なコラボレーション企画を立案する豊田紀雄 氏によるグループ展や個展が多数開かれる一 方、高專寺赫、有川通子らが個展でベテラン作家ならではの画業を見せてくれたことは、デジ タル化が進む美術表現の中にあって、ファインアート健在なりを見せる展覧会となった。その一人、長年マチエールにこだわった色づかい で抽象世界の表出に力を注いでいる高專寺氏から、絵を描き始める原点となった広島の山間の町の小学校で出会った先生への感謝の気持 ちを書いた一文が寄せられた。
T.H 先生へ
T先生、随分ご無沙汰しております。お変わりございませんか。
先生が私たちの教室を担当されたのは、私たちが小学校3年生の時 でした。あの当時を思い出しますと、一コマ一コマが懐かしく、あん なに愉しい学校生活はありませんでした。
掃除が終わると「お八つ」の 時間があり、先生からお金を渡されて交替で近くの店まで行ったものでした。世の中のことが多少分かってくると、あれは夢の様な時間で した。授業も面白く、脱線も多く一面的でなく多面的な考え方に気付 いて欲しいと云うことだったのではなかったかと思います。和気あいあいの教室は素晴らしいものでした。小学校の3年生であの様に自由で伸び伸びした一年間は貴重な経験でした。
9月になった頃だったと思います。偶然、窓の外を見ると先生が校庭で絵を描いていらっしゃるのが眼に入りました。外に出て先生の側に行きました。古い木造校舎と校庭にある太い松が描かれていました。
その絵は先生が生地ペルーに帰られた後も廊下に飾られていました。 先生が私たちへの贈り物として描いて下さったのだと感じました。先生は背の高い彫りの深い顔をされていましたね。先生とは私が中学一年生の頃まで、手紙の遣り取りをして下さり感謝しております。
私が絵を志したのは、真摯にキャンバスに向かっていらっしゃる先生の姿に接したことがきっかけだと思っています。中学に入ると美術ク ラブに入って絵を描くことに熱中し始めたのも、先生からのお奨めが あったからでした。
油絵は学生時代を含めて 25年程やりました。現在はア クリル絵具を使用して作品を制作しています。水と油と言いますが、使い始めて色々な発見があり、素材の面白さ、 水性でありながら強い表現もできること等、非常に魅力ある素材です。
先生、私は元気でやっています。どうぞお元気で。
高專寺 赫拝
セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真:2018年10月19日〜28日 高專寺赫展にて撮影
編集後記
ポピュリズムやと少数意見を抑え込むような「同調圧力」が席巻する現在の世界だが、作家・堀田善衛さんのモ ンテーニュの評伝を通して教えられたことがある。
16世紀のヨーロッパで宗教改革を唱えたプロテスタントが生まれ、カソリックとの間で血みどろの争いが繰り返されてい た中で、モンテ―ニュやエラスムス、トマス・モア、ラ・ボ エシらの人文主義者が輩出、「寛容」の大切さを唱えたことは大きな出来事だったという。
彼らは自分の考えを絶対視し人に強要することを排し、他者の意見にも耳を傾け論じ合うことの大切さを説いた。「私は自分の尺度で他人を判 断するという誤りを全く持ちあわせていない。
自分もある一つの型に縛られているとは思うけれども、それを他人に 押し付けることはしない。」(モンテーニュ「エセ―」)遠い 昔のことのようだが、こうした言説には、今改めて耳を傾 けるべきことが少なからず包含されているように思う。
この「アニュアル・レポート」上においても、昨年から多 くの人たちのさまざまな意見が飛び交うことに軸足を置いてきたが、今号からはよりいっそう実践の現場で生きるダンサーや振付家、アーティストたちがやってきたこと、挑戦していこうとしていることなどをめぐって自由自在に論じ合い、他者の声に耳を傾け、体験を基に考え抜いた自らの言葉で発信していける場にしていきたいと考え、寄稿してもらっている。
ただ「いいね」という一言で片づけるのではなく、この小紙が意見を交し活発に論じ合うセッションの場の一つになってくれればと願っている。(T.I)
編 集:セッションハウス企画室(伊藤 孝、上田道崇)
発行:〒162-0805 東京都新宿区矢来町158 セッションハウス
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