セッションハウス アニュアルレポート2018 中村蓉
総合演出・中村蓉「ガイド付き!魅惑のダンス会」
〜おもてなしの怒り〜
「踊リノ届ケ方カラ再考シ画期的ナ公演ニセヨ」という挑戦状が セッションハウスから届き、ダンスブリッジ〈魅惑のダンス会〉の奮闘は始まりました。主に考えたことは二つ。
@お客様と踊りの、身体的&心情的距離を伸縮させる。
A作品がより面白く味わ える解説(スイカに塩、のような。)を “ただ話す” だけでなく作品に適したやり方で付ける。
@では、客入れ時間30分間、楽屋・調光室・ホワイエ・スタジオ内など同時多発でダンサーと演奏者がパフォーマンスを行うという、美術館をヒントにした実践を試みました。来場者は経路は決まっているものの時間内なら何度でも観られ、基本的にいつ その場を離れてもいいシステムです。これは「踊りとの距離・時間 を自分で選ぶことができる(伸縮できる)」という鑑賞者の能動性を 生み出すことが狙いでした。そして楽屋や調光室など普段あまり見 ない、劇場の裏側を体験していただくことでその後の本編3作品を 「この建物内で踊られる作品」として空間ごと味わってほしいと考え ました。その想いは、本編 3 作品すべてアクトエリアを変えた事に も繋がっています。
Aの結果、出来上がった形は、日本語と英語の同時通訳・落語 の枕・原案ドラマのオープニングパロディ的「阿修羅」の説明でした。それぞれの作者に作品 誕生の経緯やコンセプトを聞 き、最適な解説スタイルを共に考える中で、総合演出の私も “た だ作品を並べる” だけでない理 解と責任を持つ事が出来ました。そして、もはやおまけの域を超え た「解説パフォーマンス」に人手が必要となり、馳け廻る出演者の 中に自然と作品の垣根を越える一体感が生まれたように思います。
この公演で印象的だったのは、公演2日目の成長です。初日は想定し切れなかったことがあり混乱を来たす場面が多々ありました。その状況を受け、初日打ち上げの場で、すぐに、出演者・スタッフ全員でアンケートやお客様の声から対策を練り、観覧経路の変更・ ステージの底上げ・映像 2 面打ちなど翌日に向けた改善を決めました。作品内容だけでなく「作品の最適な届け方」に向けて妥協を一切せず、出演者・スタッフ一丸となったあの時間は、ダンスの未来 を燦々と輝かせるエネルギーに満ちた画期的瞬間だったと思います。
振り返ると、これら「踊りの届け方」の試行錯誤の原点は、私の場合決して「お客様へのおもてなし心」ではありませんでした。正直に今、申し上げれば、私に在ったのは「怒り」です。もっと突き抜けたいのにズバ抜けられず器用にまとめてしまう自分に対して、 いつまでたっても踊りの価値が上がらない世間・価値を上げること が出来ない創作者や観劇玄人や日本のコンテンポラリーダンスに関わる全ての人に対して。観に来た人全員に「目の前にあるダンスに 対して傍観者では居られなかった」感触を握らせるべく、手を尽く しました。ダンスを面白くするのは私だけでもあなただけでもない、 私もあなたも必要なんだとお互いに感じたかったのです。私の怒り、喜劇にせざるを得ないマグマは、この公演で披露した新作『阿修羅のごとく』に色濃く現れていると思います。その結果、お客様の反 応はとても具体的で明快でした。アンケートでも「〇〇してほしい・ここが残念・ここに惹かれた」など赤裸々なものが多く、それは翌 日の公演改善に大変役立ちました。口頭の感想でも簡単な言葉にまとめようとせず、それでもなんとか伝えようとしてくださるお客様の姿勢や上気したお顔に救われました。 私個人としては今回「やるからにはトコトン若手の力、見せたろ!」 と、中心メンバーの五十嵐結也・伊藤麻希はじめ出演者・スタッフ全員が駆け回り、奮闘してくれた事に本当に感謝しています。良くも悪くも一人で全責任を負うやり方に馴染んだ私にとって、一緒に 闘い泣いて笑ってくれる仲間が居ることに驚きと感動を得た大事な公演となり、それは同時に、私に「コンテンポラリーダンス界の未来を担う」という覚悟を抱かせるものとなりました。
中村蓉
セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真は2018年11月3日、4日上演
東京発ダンスブリッジ・インターナショナル2018
伊藤直子版「旅は道連れ劇場」
総合演出・中村蓉「ガイド付き!魅惑のダンス会」
上写真:会場中パフォーマンス ダンサー:五十嵐結
下写真:中村蓉振付作品『阿修羅のごとく』 出演:五十嵐結也・中村蓉 演奏:金井隆之・長谷川紗綾