リンゴ企画報告-アニュアルレポート2018

セッションハウス アニュアルレポート2018 リンゴ企画報告 

近藤良平が主宰する「リンゴ企画・神楽坂とさか計画」は、昨年に続 いて近藤とピアノの廣澤麻美、ギター等の石渕聡のアイディアによ る楽曲演奏と5人の若手女性ダンサーを起用。近藤自らが語りと字幕 映像を入れながら数多くのシーンを創り出し、ダンスの面白さを提 示する方法で実施した。

 

「とさか計画・THE ORIGIN2」について

 

神楽坂とさか計画

近藤良平振付演出、若手のダンサーを起用した「とさか計画オリジン2」。 この作品は、初めから終わりまで、ダンスがどのように作られるかということを、観客に対して啓発していくものであった。

 

 内容は非常にわかりやすく、初めは「歩く」ということのバリエーション や「振りになる瞬間」などを具体的に示すことから始まり、最終的には作品の 初めから行われた全ての動きをつなげて、一つの長いダンスシーンを仕上げてみせる。
初日の終演後に、バレエを習っているという小学校四年生女子が、「コンテンポラリーって初めてだったけど、すごくわかりやすかった!」 と話してくれたが、年齢を問わずに確実に伝わるものがあったであろう。

 

このようなダンサー側から「ダンスの見方」なるものを、その作品を通して発信する試みは世界的にもあまり例がない。もちろん、ポスト・モダンダンスで行われたような「ダンスとは何か」ということを発信する「メタダンス」的手法は散々行われてきたが、本作品は、全くその類いのものではない。「日常的な動作が、ダンスの空間-時間において、どのような意味を持つか」という問題が、研究者や批評家からの分析ではなく、実践家から発せられることの意味は、やはり、実践で裏付けられていることからくる、 圧倒的なリアリティ/真実味である。もちろん、近藤演出は、良い意味で「おふざけ」も「皮肉」も混ざってくるので、冒頭に近藤自身が「ダンスについてあることないこと」と観客に話しているように、やられている内容が「本当の事実」を取り上げているドキュメント作品ということではない。そうではなくて、舞踊家自身が「動きに何らかの意味を付与する/しようとしている」 様を観客に曝しているというリアリティである。それが、表情であったり、舞踊の型(アティテュード、アン・オーのような)やコンタクトのパートナシップのあり方であったり、意味のレベルも視覚的なものから言語に翻訳可能なものまで様々提示されている。

 

神楽坂とさか計画

 この試みは「コンテンポラリーダンスの難解さ /敷居の高さ」に 挑戦するものでもあり、観客はダンスを読み解くヒントを終演後それぞれ持ち帰るであろう。
当然、作品を見る見方は自由であり、何者からも規制される訳ではないが、ダンスを初めてみる観客が「何もわからなかった」で終わってしまうことも珍しくない。
本作品は、そのような場合における、一つの説明のあり方のモデルを十分に示せたのではないだろうか。


石渕 聡(大東文化大学文学部準教授・コンドルズ)

 

セッションハウスアニュアルレポート2018より抜粋
写真は2019年2月16日、17日上演
リンゴ企画 近藤良平 『神楽坂とさか計画』 "THE ORIGIN 2 "

 

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