ヴォイス・オブ・セッションハウス2020 伊藤直子
伊藤直子「パンデミックの中を生きて」
世界中の人が当事者になる体験に打ちひしがれる思いの2020年の4月5月。私たちの生活、生き方そのものが不要不急と否定され傷ついたダンサーは多かったことでしょう。その傷すらも格差があって、世の中は大きく分断されていきました。
ダンスをするものがどの様に生き残れるのかと我がことを考えている間に、地球の、人類の危機、と認識せざるを得ない事態なのだと一気に世界観が変容していきました。
しかし、まずは私たちの今日があり、明日があるのです。セッションハウスでは、若いスタッフ、ダンサーの力が一気に動き出しました。オンライン公演の実施を決め、カメラや送信関係の機材を揃え、ダンサー募集をし、5月17日には1回目の配信を敢行しました。初回、舞台にひとりのダンサーが立ち、照明が1燈ともされた瞬間、その喜びはその後の継続の決心を促すものでした。7月までの毎週、オンライン配信をし、舞台を大きく上回る視聴者に観ていただき、チャットで交流し、その新しい関係性はダンスにとって悪くないツールになると確信しました。そして2020年の自主企画「ダンスブリッジ」の9公演をすべてオンライン配信と決め、人の密を少なくし、入場料収入がなくなるのはクラウドファンディングで呼びかけ、たくさんの助けを得て新しい表現の発見に向かいました。
そのことで得たことは、スタッフワークの新しいあり方。ダンサーが見えないものを信じて踊る拡張する体、イメージ力の変容です。ダンサーもスタッフも「今を共有するオンライン」を通して、映像への認識の変化、意識の変化を共通体験いたしました。
2021年になっても祈り虚しく感染は拡大し、個人の生活が侵され、家族の幸せが壊され、元に戻る感覚を持てない現実を突きつけられています。劇場としてのセッションハウスは昨年同様、キャンセルが相次ぎ、先の見通しの立たない中で、困難はより一層深まっていきます。この現実の中で、ダンスの環境を守る=自分の生活を守る=ダンサーを守ることが、私たちのすべき今日であり、進むべき明日となるでしょう。
大学にも行けない学生たちの公演を、民間の私たちがどこまで支え得るのか。力を尽くします。地道に自力でダンスを続けてきたダンサーたちの発表の場の継続に力を尽くします。日本の先鋭たちのダンスを、再び世界と交流できるよう発信しつづけます。
パンデミックの時代に、ダンスをすることが生きることであるダンサーも、飲食を提供することが生きることである人も、同じように困難の中で孤独な苦しみを体験しています。パンデミックで知った価値観は人それぞれでしょう。私は私の今日を精一杯生きて、その明日がダンスの未来に繋がるなら、セッションハウス30周年の今年を祝祭感はなくとも、しかし、唯一無二のダンスの場として乗り切る勇気を持ち続けていきたいと思います。
伊藤直子
ヴォイス・オブ・セッションハウス2020より抜粋
セッションオンライン劇場