中村 蓉「2020年と踊りと私」

ヴォイス・オブ・セッションハウス2020 中村 蓉

中村 蓉「2020年と踊りと私」

中村 蓉

この一年に起きた身体の外と内の出来事を、私はきっと忘れない。
この場をお借りして時間経過と共に記しておこうと思う。

 

○4月
活動10周年の自主公演『ジゼル』を予定していたが、中止に。劇場からの映像配信も考えたが緊急事態宣言発令により劇場自体が閉鎖となり、場を失う。やるせない気持ちを聞いて欲しくて電話した友人から、彼女の祖母の家が5月に取り壊されることを聞き「古民家で踊られるジゼル、面白い。」と思い立つ。スタッフの方々と話し合いを重ね、新たにチームを組み直し、最少人数で配信公演『ジゼル特別30分版』を決行。『ジゼル』に関わってくれた方々皆が見守る中、今、生まれた踊りを届けた。私の生には否応なく踊りがある。踊りに一喜一憂して、振り回されて生きてみようと思った。

 

○5月
セッションハウスが物凄い瞬発力で機材を揃え「オンライン劇場」を始めたことに驚きと喜びと尊敬が溢れる。今年度から受け持つことになった大学の身体表現の授業がzoomを利用して始まった。画面の向こう、それぞれの場所で踊る方が伸び伸びしていた印象。

 

○6月
私はこれまで即興で踊ることはほぼ無かった。コンセプト・振付・構成を考えた上で身体を動かしていた。それが「自分の身体に向き合う時間」が増えた結果、身体がコンセプトを待ち切れなくなって勝手に踊り始めた。起きて直ぐ・整体の更衣室・人気のない夜の東京駅…どこでも踊りたくなる。「身体の声」に気づく。今更?一体何年踊ってきたんだよ、と少々呆れつつ、嬉しい。

 

○7月前半
お客様の前で久しぶりに踊る。東京文化会館大ホール。久々に頂く拍手。感動・応援・困惑がほんの数秒で伝わる。拍手が含む情報の多さに改めて圧倒され、自分が分からなくなる。「求められること・受けとめてもらったこと・拒否されたこと・私がやりたかったこと」じゃあ私の踊りとは?

 

○7月後半
4月の『ジゼル特別30分版』を観た国際交流基金ロサンゼルス日本文化センターの方が「世界に向けてダンスを発信しませんか?」とご提案下さり、セッションハウスの設備をお借りして配信公演を実施。これまでにセッションハウスで初演した作品のオムニバス公演。その名も『HIT!PARADE』!会場に観客がいることを漠然とイメージするのではなく、カメラの先に確実に存在するお客様に集中を向ける、新たな身体感覚に気づく。

 

○8?9月
7月前半の「自分が分からなくなる」をぶり返し、不安になる。舞台や現場が復活しつつも常に油断できない「アクセルとブレーキ同時に踏んでる」状態で、果たして今までのように200%出し切って踊れるのだろうかと、不安になる。

 

○10月
「身体の声」を聴くプロフェッショナル、同い年ダンサーの柿崎麻莉子ちゃんと作品を創る。彼女の魔法のような踊りを間近で観察できる贅沢で幸せな時間。

 

○11月
室伏鴻さんの作品『墓場で踊られる熱狂的なダンス』を踊る機会を頂く。もともと5人で踊る群舞作品をソロで。身体に向き合い発見を得たり、底が見えるほど自信を失って不安になったこの一年の後半に、室伏さんの振付・メモ・言葉に再び出会えたのは絶好のタイミングだった。7月から続いた不安が払拭された。

 

中村 蓉

○12月〜2021年2月現在
感染症対策を行いながら作品発表を続けていくペースが身についてきた。『理の行方Vol.6』や『ジゼル2020』(セッションハウスの「ダンスブリッジ」で配信」)を踊る。この状況下で創作して、作品にとってベストな演出・選択が出来ているか自問自答することもあるけれど、全てはチャンス。新しい思考回路を手に入れるきっかけとして挑む。そしてこの時期、学校アウトリーチをいくつか実施できた。夢中で踊り、無心で自分の身体に集中する子供たちを見て「踊りが大好きな私」を私自身が取り戻せた。
「私には身体が在る」ということが、最低限にして最大の大切な、2020年一番の発見だ。身体があれば少なくとも舞台に存在出来る。あなたのことも確認できる。思考が止まった時も、身体がすでに答えを知っていたりする。例えば「風ってどんなもの?」と聞かれて言葉で返すのはなかなか難しい。でも、晴れた日に風を浴びたその肌の感覚は、目を閉じればすぐに思い出せる。踊るとき、心だけじゃなくて体もどこまでも連れて行ってあげたい。あわよくば体が勝手に走り出して知らない心に出会ってみたい。2021年、昨年じっくり積み上げた思考と身体と共に、一つ一つ、温度のある答えを出していきたい。

 

 

中村 蓉

ヴォイス・オブ・セッションハウス2020より抜粋

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