中島詩織「2020年、わたしは今まで以上に神楽坂セッションハウスと密な関係になった。」

ヴォイス・オブ・セッションハウス2020 中島詩織

中島詩織「2020年、わたしは今まで以上に神楽坂セッションハウスと密な関係になった。」

中島詩織

〇2020年3月22日 マドモアゼル・シネマ公演
 「彼女の椅子(あるいは、あなたの無意識がつくる心の感情のダンス)」。この公演を最後に神楽坂セッションハウスは閉鎖した。
そこからバタバタと「緊急事態宣言」という今まで聞いたことのない宣言が出され、劇場としてだけでなく、稽古場としての神楽坂セッションハウスも閉鎖し完全に灯が消えた。

 

〇4月 わたしの心は空っぽになった。
 わたしは普段、映像の配信やイベントなど様々な企画をしているただの会社員だ。ただの会社員だが、私の主軸はマドモアゼル・シネマのダンサーだ。悲しい時もつらい時も楽しい時もうれしい時もずっとダンスをしていた。これはわたしだけではないと思う。そして何より人が好きだ。わたしはいつも人を巻き込んで踊る。ダンスをする場所が奪われ、人には直接会うことができなくなり、空っぽになった。空っぽになっていたら、セッションハウスから「オンライン配信の機材を買った。この状況でのダンスの在り方を考えたい」と連絡をもらった。ただの社会人として培ったノウハウをダンスに活かせるかもしれない。こんな状況下でもダンスを届けることができる。神楽坂セッションハウスという劇場を、ダンスを止めてはいけない。という気持ちが生まれた。

 

〇1か月ぶりに訪れた神楽坂セッションハウスは真っ暗で埃っぽくて、
 30年動き続けていた場所が止まってしまった時間に少し怖くなった。

 

〇5月16日 セッションオンライン劇場がはじまった。
 ソロ限定、カメラは2台。スタッフは3人、YouTubeを使用するため音楽に制限あり。ダンスを踊った後にはチャットを活用したアフタートークを実施することとなった。そして急にMCを務めることとなった「しぃちゃん」。もちろん喋りの経験はないことを直子さんは知ったうえでYouTubeだからしぃちゃんがちょうどいいと思う!という言葉をもらい、できる自信もないが断る理由もないので承けることにした。トップバッターを務めてくださったダンサーは柿崎麻莉子さん。柿崎麻莉子さんの身体から溢れるダンスとともに、神楽坂セッションハウスという劇場の止まっていた時間が動き始めた瞬間をわたしは一生忘れないと思う。
チャットを活用したアフタートークはとても新鮮だった。アフタートークは劇場でおこなうとどうしても周りの目を気にして発言を控えてしまう。しかし、WEBの特性である匿名性を活かすと質問も感想も書き込みやすくなる。さらにソロを踊ったダンサーは自粛中にとてもいろんなことを考えて作品作りをしてきていた。アフタートークでその思いが溢れ出てくる。楽しいトークの時間を届けることができた。そして、いろんな地域から、いろんな国から見ていただくことができた。以前ツアーに行った国で出会った人、東京から地方へ、海外へ移住した人、入院生活を余儀なくされている人。いろんな人に届けることができるのはオンラインの強みだ。どこよりも早くオンライン劇場を完成させた後、緊急事態宣言が解け少しずつスタッフが増え、機材が整うころにはオンライン劇場に慣れ少しずつ少しずつクォリティーを上げることができた。(これだけは自負したい(笑)短期間配信した回数が異常だった)

 

中島詩織

〇2020年7月18日 マドモアゼル・シネマ公演「途中下車」
 この日、神楽坂セッションハウスに再び限定40名のお客様を招いて公演をおこなった。そして翌日にはオンライン配信公演をおこなった。通常の公演作りと並行してオンライン配信用の作品を作るのはとても新しかった。これはきっとレジデンスカンパニーにしかできない作業であり、贅沢にもカメラを置いてリハーサルをおこなうことができた。日常がなくなり、世の中がどんよりしている今だからこそエンターテイメントは、芸術はとめてはいけない。わたしはこの1年を通してそれを肌で感じた。これからどんな日常が待っているかわからない。マスクをしていなかったあの日が戻ってくるかわからない。でもわたしたちは2020年にたくさんの新しい技術を手に入れた。新しい感情を手に入れた。新しい習慣を手に入れた。これを大事に抱えて2021年、新しい武器を手に進んでいきたい。

 

マドモアゼル・シネマ ダンサー 中島詩織
ヴォイス・オブ・セッションハウス2020より抜粋

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