初めての海外公演
2025年の夏、マドモアゼル・シネマはアメリカ西海岸の都市サンディゴから招かれて交流公演をする機会に恵まれました。向こうで上演した作品「女は旅である」は振付の伊藤直子の祖母が写真花嫁としてアメリカに渡った移民体験を基に作ったもので、日系移民も多い街で上演したことから大きな反響を受けました。渡航した6人のダンサーを代表して秋元麻友子が体験記をお届けします。
秋元麻友子
2025年7月22日から30日まで、アメリカ(サンディエゴ)で公演を行いました。「女は旅である」の上演とあわせて、教会や幼稚園でもパフォーマンスを行いました。
アメリカに行くことは、これまで一度もアジアを出たことのない私にとって、勇気のいることでした。長時間のフライトに耐えられるのか、入国審査で何か問題が起きないか、現地で怖い思いをしないか、無事に日本へ帰ってこられるのか。出発前は次々と不安が浮かび、 期待よりも緊張の方が大きかったのを覚えています。
私は2020年春からマドモアゼル・シネマに参加しました。コロナ禍の真っ只中で、リハーサルに集まることもできず、自宅で映像を見ながら振りを覚えることもありました。公演も配信のみの形が多く、舞台に立つ実感を得ることが難しい時期でした。メンバーから過去の海外公演の話を聞くたびに憧れはありましたが、自分自身が海外で公演をする姿はなかなか想像できず、どこか遠い世界の出来事のように感じていました。マドモアゼル・シネマでの活動は、私にとって最初から「制限のある状態」が当たり前でした。人と集まれないこと、お客さんを目の前に舞台に立てないこと、先の見えない状況の中で踊り続けることは、特別な苦労として意識する以前に、日常そのものでした。だからこそ、今回の海外公演は「やっとここまで来た」という達成感よりも、純粋に新しい経験に向き合う挑戦として受け止めていました。
今回のアメリカ滞在では、アメリカで生まれ育った人、メキシコからの移民、日系の人など、実にさまざまなバックグラウンドを持つ人々と出会いました。そこでは国籍や出身地よりも、「一人ひとりの個性」として互いを尊重し合う空気が自然に存在していました。その姿勢は、私自身が大切にしている感覚とも重なるものでした。教会でのパフォーマンス後、現地で暮らす日本人の年配の女性から「いつの時代も女は強いね」という言葉をかけていただきました。その言葉を聞いたとき、これまで自分が抱いてきた不安や経験が、100年前の写真花嫁たちの覚悟や強さと、ほんの少し重なったように思いました。
異なる環境に身を置いたことで、日本という場所や、現在の自分の在り方に対する納得感がより強くなりました。初めての海外公演でありながら、必要以上に特別なものとして捉えなかったのは、コロナ禍から活動を始めた私にとって、どんな状況でも淡々と目の前の表現に向き合うことが自然になっていたからだと思います。環境が変わっても、自分がやるべきことは変わらない。その感覚を確認できたことは、今後どこで踊ることになっても、軸を持って向き合えるという小さな自信につながりました。



