蓮子奈津美『音が教えてくれる』

音が教えてくれる

蓮子奈津美(音響・ステージコーディネーター担当)

 

私は音が聴こえる瞬間が好きです。お店で音楽が流れ始める瞬間や、映画館で主題歌が空間いっ ぱいに広がる瞬間、遠くから車の音楽が近づいてくる瞬間など、音が生まれ、空気を震わせながら自分のもとへ届くあの感覚に、子どものころから強く惹かれてきました。音が自分の胸の中に すっと入り込んでくるような感覚があり、それがとても心地よいと感じていました。目に見えな いはずの音が、その場の空気や自分の気持ちを一瞬で変えてしまう力を持っていることに、幼い ながらも不思議さと魅力を感じていたのだと思います。 大学生のとき、プロの音響技術者の方とお話しする機会がありました。その際、音がどのように 作られ、どのように空間に届けられているのかという裏側を知り、大きな衝撃を受けました。それまで私は音を受け取る側でしたが、音を届ける側の存在を強く意識するようになりました。そ して、自分も音を通して空間をつくる仕事に携わってみたいと考えるようになりました。大学卒業 後は音響会社に入り、現場で経験を積むことができればよいと漠然と思い描いていました。そんなとき、直子さんから「うちにくればいいじゃない」と声をかけていただき、セッションハウス のスタッフとして働く機会を得ました。この一言が、私の進路を大きく方向づけるきっかけとなりました。

 

ダンス公演の現場では、照明に対しては具体的で細やかな要望が出されることが多い一方で、音に関しては「このくらいで」「いい感じに」といった曖昧な表現で任されることが少なくありま せん。どのくらいの音量で出すのか、どのタイミングで音を入れるのかといった重要な判断を、音響スタッフが担う場面が多いのです。実践経験が十分ではなかった当時の私にとって、それは大きな責任であり、不安も感じていました。そのような中で、音響スタッフの大先輩である上田さんから教わった言葉があります。それは「音が教えてくれる」というものでした。この空間にどのように音を入れるのが正しいのかを頭の中だけで考えるのではなく、実際に鳴った音をよく聴き、その音がどうしてほしいのかを感じ取ることが大切だという教えでした。音が響きすぎているのか、まだ足りないのか、前に出たがって いるのか、少し引いたほうがよいのか。そうした微細な変化に耳を澄ませることが、音響スタッフとしての基本であると学びました。音は単なる機材の操作結果ではなく、その場の空気、演者の動き、観客の集中力と密接に関わり合いながら存在しているのだと実感しました。

 

これまでの十年間、失敗も数多く経験してきました。音量のバランスを誤ったことや、タイミングを逃してしまったこと、自分の判断に迷いが生じたこともあります。しかし、その一つ一つの 経験が、音をより深く聴く姿勢を育ててくれました。納得できる公演もあれば、悔しさが残る公 演もあります。その積み重ねが、現在の自分を形づくっているのだと感じています。音響の仕事に携わって十年が経った今でも、音は私に多くのことを教えてくれます。同じ楽曲で あっても、空間や出演者、観客が変われば響き方はまったく異なります。だからこそ、毎回が新し い挑戦であり、学びの連続です。私はこれからも、音が生まれる瞬間のときめきを大切にしなが ら、音に真摯に向き合い続けたいと考えています。そして、誰かの胸にそっと入り込み、心を動か すような音を届けられる存在でありたいと思います

 

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