ヴォイス・オブ・セッションハウス2021 パンデミックの下、私達が問われてきたものは・・
コロナ禍に見舞われて 3 年目になったけれど、今なお一進一退で予断を許せない状態が続き、私達の活動には幾多の困難が立ちはだかっていて苦闘の毎日を強いられている。その上この冊子の編集をしている時にウクライナで多くの犠牲者を出す戦争まで起きている。まさに今は昔、疫病や地震・暴風雨などの自然災害、戦乱に見舞われた世を嘆いて、鴨長明が『方丈記』の中で「古都すでに荒れて、新都はいまだ成らず。ありとしある人は皆浮雲の思いを成せり。」と書いたような状況になっていると言えるだろう。
そして前代未聞ともいえるパンデミックは、砲弾で破壊された街並みの風景や傷ついた人々の姿が見えやすい戦争とは違って、可視化するのがたいへん難しいところがある。しかし、そうした可視化しにくい状況下に立たされていながらも、ダンサーやアーティスの中からは、人と人との間の対話する機会が制限されているがゆえに、自己内対話とも言えるものが深化したように思え、それを体現したような作品も少なからず生まれてもきたように感じられる。
セッションハウスでも舞台経験豊富な振付家たちの作品を提示した「ダンスブリッジ」でも、若手ダンサーの単独公演を軸にプログラムした「未来ダンス」でも、そうした志向性が顕著になっていたように思う。また展覧会などにも自らの心の内を凝視するような緊張感あふれる作品が目につくようになったように感じている。
昨年の巻頭言でも触れた中国の作家・閻連科が「厄災に向き合って」というエッセイで、ジョージ・オーウェルの描いた「ディスピア」つまりは同調圧力と監視社会到来の気配がする中、一人ひとりが考え抜いた言葉=異なる音を響かせていくことの大切さを説いていた。そして現在、まさしくその問いかけに応える気運が出てきたとも言えるのではないだろうか。
そのような活動を実践してきたダンサーやアーティストのさまざまな声に耳を傾けてほしい。
(記:セッションハウス企画室・伊藤孝)
合同美術展「ディストピアの到来に抗して」参加
高橋ブランカ写真作品
“鳥たちまでロング・ディスタンス”