ヴォイス・オブ・セッションハウス2022

ヴォイス・オブ・セッションハウス2022

巻頭言 コロナ禍と戦禍を乗り越えて

 

ヴォイス・オブ・セッションハウス2022

 

今私たちが住む世界は、コロナ禍に追い打ちをかけるように、ウクライナやミャンマーでの戦争はますます苛烈さを増し、決して安穏とした気持では過ごせないことになっています。2022年、そうした困難な世界の中で一人ひとりのダンサーや振付家、制作者は、さまざまな想いで多様な活動をやってきました。「たかがダンサー、されどダンサー、たかがアーティスト、されどアーティスト」の心意気で皆頑張ってきました。

 

2022年には「ダンスの力プロジェクト」と題して、「家族の今昔物語」のシリーズで3作品を創出しました。笠井瑞丈は父の笠井叡をはじめとして一家そろってダンスに生涯をかけてきた物語「喜びの詩」を創りました。鯨井謙太郒は、祖父の沖縄戦線での体験の手記を基にした「アーカーシャの唄」で、平和への想いを作品化してきました。マドモアゼル・シネマは振付の伊藤直子の祖母の写真花嫁としてのアメリカ移民体験を基にした作品「女は旅である」を創りました。また毎年趣向を変えて実施している「ダンスブリッジ」は秋に「3つのダンス」として5企画を実施し、舞台経験の豊富なダンサー15組が作品を発表。中でも1991年のセッションハウスの設立時からバレエ・クラスを担当し続けてきた尾本安代が久しぶりにセッションハウスの舞台に立ち、ソロダンスで「白鳥の歌」を踊ってくれたことは特筆に値することだったと言えるでしょう。

 

昨年、埼玉の彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督になった近藤良平は、大劇場で大掛かりで新たな企画を立ち上げる一方で、活動を始める契機となったセッションハウスのような小劇場でも、独創的なセッションに精力的に取り組んできました。今年もその姿勢を崩さずに、突き進んでいます。そして次代を担う若手ダンサーたちも「ダンス花」「アカイクツ」「リンゴダンスミュージアム」などのプログラムで、多様多彩な作品を発表してくれました。

 

さらに私たちは以前から、地元・神楽坂との地域的な関係の深化を模索してきましたが、古典空間の小野木豊昭氏が古典芸能とマドモアゼル・シネマとの異種格闘技の面白さに着目し、2年前からセッションハウスと毘沙門天の境内でのセッションを企画して下さいました。今年も古典芸能者との共演を考えておられ、これからが期待大の動きとなっています。

 

一方、2階のギャラリー・ガーデンでは、昨年42回に達した渡辺一枝さんのトークの会「福島の声を聞こう!」が、帰還困難地域から避難している方の布絵展を同時開催するなど、ともすると風化しかねない原発事故の記憶を忘れてはならじとの活動を続けてきています。 そうした方々の多様な声に耳を傾けて下さい。

 

(記:伊藤孝)

 

ヴォイス・オブ・セッションハウス2022-神楽坂セッションハウス記事一覧

近藤良平インタビュー Voice of Kondo Ryohei

Q:さいたま劇場の他にも各地でいろいろな活動をしているけれど、どうやって時間の割り振りをしているのか大変なことだと思いますが、大きなシステムの中では、どの程度の時間拘束されているんでしょうか?K:拘束されている時間は、財団があって僕のやるべき仕事は年間プログラムなどの書類を確認してハンコを押したり、...

笠井瑞丈 コロナ元年2020年から考えたこと Voice of Kasai Family

コロナ元年の2020年、世界は未知のウィルスとの戦いが始まった。その年8月にセッションハウスで笠井家の公演を上演させてもらいました。元々はコロナ以前に伊藤直子さんとオリンピックの頃に何か面白い事をやろうという話から始まったのですが、同年2月ごろからコロナ問題が勃発してしまい、人と人との距離が変わり、...

笠井叡 リアリティの意味を問い続けて Voice of Kasai Family

2020年の1月頃から、或いはもっとそれ以前から生じていたというコロナ世界的大流行が始まってから、僕自身の中では、常に二つの方向に分裂させられるような生活が始まっていたと思う。別の言い方をするならば、自分の中において「リアリティ」という言葉の意味が分裂していた、ということであるかもしれない。コロナ流...

鯨井謙太 「アーカーシャの歌」に籠めた想いは Voice of Kujirai Kentaro

私はこれまでダンス作品を政治的主張と結びつけて創作したことはありません。とはいえ、ダンスが身体そのものを作品としている以上、身体の来歴や記憶、過去との繋がりと無関係にはいられないと思います。身体芸術は、身体という具体的・物質的な側面と、コンセプチュアルなものを規定精神的側面という両極性を含みます。そ...

竹之下たまみ 100年先に何を残すか Voice of Takenoshita Tamami

「家族の今昔物語」という企画のもと、マドモアゼル・シネマは100年前に写真花嫁として海を渡った少女たちを描いた「女は旅である」の公演を行った。場所は拠点であるセッションハウスと、数年前に縁があって繋がった和歌山県串本の田並劇場。串本は、かつてこの地から日本人が海外に旅立ち、移民として生活した人々が多...

望月崇博 2022年ダンスブリッジ報告 Voice of Mochizuki Takahiro

2022年のダンスブリッジは全5公演が行われ、各公演でテーマを共有する15団体が参加をした。順にボレロを主軸とした作品創作に挑戦した「3つのボレロ」、新進気鋭の振付家による「3つの未来」、映像や音響によってバーチャル世界の出現に挑戦した「3つのバーチャルリアル」、白鳥の湖をテーマとした「3つの白鳥」...

尾本安代 「白鳥」を踊って Voice of Omoto Yasuyo

「ダンス・ブリッジ」で『白鳥』をテーマに何か踊ってみませんか?と伊藤直子さんから提案頂き本番を迎えるまでに1年の月日が流れました。どのような作品を創るのか、なかなかアイディアは浮かばず、若手コンテンポラリー振付家として活躍している苫野美亜さんに相談しました。この数年間に苫野作品を何度か見る機会があり...

小野木豊昭 コラボレーションへの期待 Voice of Onogi Toyoaki

少なくとも2020年までの日本の社会は、経済的価値を求心力に前進と上昇を繰り返してきたと言えよう。コロナ禍は、その勢いに急ブレーキをかけると同時にある暗示を与えたように思えてならない。前進と上昇を一時休止…「間」を置いて、後方と下方に視線を移し、過去に蓄積された足元に在る価値へ着目することである。蓄...

1月14・15日近藤良平・リンゴ企画「正直者は笑い死に」(3回公演)出演・構成・振付:近藤良平、笠井瑞丈1月22日「アカイクツ」(2回公演)4組の女性振付家による合同公演R6Project(出演:荒木厚子、荒木靖博、こばやしたてし、小林佐和子)高橋志帆(出演:高橋志帆)坂田有紀子(出演:古茂田梨乃、...

セッションハウスの2Fギャラリー【ガーデン】では、2022年も自主及び共同・協力企画のほか、レンタルの展覧会、トークの会、クロッキー会などの活動の場となった。自主及び共同・協力企画の軌跡2月9日〜13日わわわ俳句展(T)3月30日〜4月10日ツーゼ・マイヤー展mylucentday5月12日〜17日...

東京電力福島第一発電所事故から12年が経とうとしている。あの当時、テレビニュースに釘付けになり、新聞を貪り読み、ネット情報を漁る毎日だった。テレビも新聞もネットも、さまざまを伝えてくれたけれど、私の知りたいことは、それらからは伝わってこなかった。避難指示が出されても避難せずに、あるいは避難できずに暮...

編集後記

 

断絶の時代と言われるようになって久しい。ネット・コミュニケーションが盛んになったのに比例して、逆に共通性ではなく断絶が土台をなすような閉じた世界が拡がっている感がします。「公共」とは縁のないロスト・ジェネレーションの時代の到来とも言われる現在です。しかし、セッションハウスはそれとは一線を異にして、1991年の創設以来、独立した個々人がセッションしあうことから公共の場=土台を創ることを目的として活動をしてきました。そうした一人ひとりの声が響き合っているのに耳を傾けて下さればとの想いから、この機関誌の編集を終えたのでした。(T.I)

 

編 集:セッションハウス企画室(伊藤 孝、上田道崇、井口智恵)

発 行:〒162-0805 東京都新宿区矢来町158番地 セッションハウス

TEL. 03-3266-0461 FAX. 03-3266-0772 E-mail:mail@session-house.net

URL:www.session-house.net

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